映像授業を既存の生徒と入塾希望者へ
成基学園の授業配信を支える「光Webスクール」
激しい競争の塾業界で勝ち残る成基
1962年に創業した成基は、洛南や洛星、同志社・立命館などの難関有名私立校への実績も高い「成基学園」や1対2型の個別指導をいち早く進めた「ゴールフリー」など、京都、滋賀を中心にいくつもの学習塾や習い事教室を展開している。
少子化と不況の波に洗われる昨今、塾業界の競争は熾烈になっている。この10年、デフレの影響で低価格競争が激しくなる一方、大手の教育機関はM&Aで多角化を進めている状況。成基でIT関連を切り盛りする成基 ICT事業部 部長の髙瀬伸介氏は、「関西圏では、公立高校の無償化や、入試制度改革などにより、公立指向が高まっているとともに、私立校の小学校設立が相次いだため、私立中学入試を目指した進学塾本来の層が薄くなってきています」と語る。
こうした中、成基は売り上げを確実に伸ばし、この激しい競争を勝ち残っている。授業内容や講師、教材、場所、料金など学習塾を選択するには、さまざまな要素があるが、成基が他塾と大きく異なるのは教育方針だ。髙瀬氏は、「成基では受験をゴールとして捉えていません。単に受験に受かるだけではなく、将来どのような大人になりたいのか、そのために必要な経験や知識を得るための学校として、受験校を選択してもらい、その先の人生を見据えるように、子供のモチベーションを高める授業を展開しています」という。また、保護者まで巻き込んだ教育コーチングも進めており、講演会なども開催しているという。
学習塾の場合、競合は多く、生徒の数も決まっているので、いかに新規に入塾してもらい、入った後の満足度を高めていくかが大きな課題になる。「ある調査会社が調べたところ、塾を選択するのに際し、安い・近いなどの条件を求める傾向が強くなっているのがわかりました。特に送迎がある程度必要となる小学校の低学年では、家から近いことを最優先する親御さんも増えています」とのことで、積極的に授業内容などをアピールすることが必要。こうした中、成基学園が進めているのが、授業映像のインターネット配信だ。
成基 ICT事業部 部長 髙瀬伸介氏
映像配信はもちろん編集やコンサルティングまで
学習塾で授業を映像コンテンツ化し、インターネットで配信するという試みは決して真新しいものではない。大手予備校は古くから授業を映像コンテンツ化し、宣伝や遠隔授業向けに導入しているほか、ビデオ教材やタブレットを予習等で用いる「反転授業」の試みの中で、大手の進学塾でも映像の活用が本格化しつつある。とはいえ、成功しているのは、主に大学受験の高校生向けのサービス。小中学生向けなどの初等教育に映像を取り入れている学習塾はまだ少ないのが現状だ。その点、成基学園では小学生向けの授業を映像として配信している。
成基学園の授業映像の配信は、既存の生徒に対するフォローと新規に塾を検討している希望者の取り込みという2つの目的がある。現在は、授業を欠席した生徒、復習に役立てたいという生徒のフォローがメインだが、「入塾を検討している親御さんやお子さんにも、成基学園の楽しそうな雰囲気を伝えたい。教室で授業を受けるハードルを下げたい」(髙瀬氏)とのことで、授業映像の配信は新規生徒獲得の促進剤としても捉えている。
こうした授業映像の配信を支えているのが、NTTスマートコネクトの「光Webスクール」だ。NTTスマートコネクトの光Webスクールは、小中学校、高校、大学などの各種学校のほか、塾や予備校、各種教室など教育事業者が映像配信を行なうにあたって必要な要素を完全にパッケージ化したサービス。映像の編集やアップロードのほか、配信事業のコンサルティングまでを一括で手がける。教室にカメラとマイクを設置し、撮影環境を作ってしまえば、教育機関側は授業や講演をするだけで、映像配信を実現できるというわけだ。
配信サービスのプラットフォームを検討していた髙瀬氏は、NTTグループとアライアンスを組んで映像配信授業に取り組んでいる浜学園の講演を聴講。サービスの開始までの時間が厳しい中、短期間で映像配信事業を立ち上げられる光Webスクールの導入を決定した。
光Webスクールサービス概要
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配信サービスを早期に立ち上げられる
導入を決定して以降、成基学園では映像化用の教室にカメラとマイクを設置し、撮影の環境を整えた。あとから編集することを前提にしているので、カメラは天井に固定できる。カメラマンが不要になるため、コスト面でもよいチョイスだ。
その他、音の反響を考えてマイクの場所を調整し、明るくなりすぎないよう遮光性のカーテンも取り付けた。使っているのは高価な業務用機器ではなく、個人向けの機器。「なにより最小限の設備で撮影を始められるのは大きいメリット」(髙瀬氏)と語る。
教室の準備が完了した後、保護者に事前に個人情報の取り扱いや編集方針を説明し、構想から約半年の2014年3月にサービスをスタートした。現在は小学校3年生と4年生の授業映像を配信中。サービスが始まってまだ数ヶ月だが、安定度に関しても「まったく問題ありません。バックボーンがしっかりしているので、安心しています」(髙瀬氏)と評価している。自前でサーバーを運営した際の経験に基づいた感想と言えよう。
教室内に設置されたカメラ。
民生機なので安価で、導入も容易。
実際の配信までのフローを見ていこう。撮影した映像はNTTスマートコネクトに渡され、成基との間で取り決められた編集方針に従って編集が行なわれる。具体的には、文字と講師が見えやすくなるように黒板の周りをトリミングしたり、テロップを挿入したり、雑音や言い間違いを削除したり、個人を特定しないようモザイク処理を行なう。
こうして編集した映像をNTTスマートコネクトの配信サーバーにアップロードし、それを成基側でチェックし、公開という流れになる。髙瀬氏は、「簡単なメモで編集方針をお伝えした感じでしたが、柔軟に対応してもらっています」と評価する。
当初は、授業を撮影される側の先生側も慣れておらず、生の授業をすべて収めると内容も冗長だったという。そのため、スタートからしばらくし、気になるところはどんどんなるべく編集するようにした。「テストをやっている時間や問題を考えている時間などをカットし、正味で6割くらいにまで短縮できています」(髙瀬氏)とのこと。日々改善を繰り返すことで、授業映像配信のノウハウを溜めているようだ。
現状は生徒のフォロー向けに授業を配信しているが、今後は授業を外部向けに公開し、入塾希望者を取り込んでいきたいという。「今は教室に来られないから映像で配信するという例が多いですが、今後は単なる『授業の映像化』ではなく、『映像化したコンテンツを核とした、教育における新しい価値観の創造』を目指したい」(髙瀬氏)とのことで、新しい教育コンテンツの可能性に大きな期待を寄せている。
撮影用の設備を備えた教室。
カメラはもちろん、マイクの位置も最適なポジションに調整されている
※当記事に記載されている内容は、2014年5月現在のものです。